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ねこと眠る箱庭

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ソラアオイ

水鏡 1

  夢を見る。
水に浮かぶ夢。
ゆらゆらと。
たゆたゆと。
水に、浮かぶ、夢。

死んだ私の、浮かぶ、夢。



* * * * *


放課後を告げるチャイムが鳴った。
葉月は、ぼんやりとした瞳で、今まさに授業を終えた教師の、ふせられがちのまつげを見る。
教壇の手元に目を落としたまま、軽口を叩いて授業の終わりを告げた稲瀬俊哉は、まだ30を越えたばかりの、この高校の中ではかなり年若い教師である。さらりとした髪は、特にセットされたわけでなく、重力に準じている。薄くストライプの入ったシャツは涼しげで、全体的に好青年といった様相を呈していた。
淡く笑っている口元。長いまつげ。
どことなく中世的な白い肌。
どこに焦点を当てるというわけではなく、葉月は、彼の全体を、なにとはなしに見つめ続ける。
ふい、と、顔を上げた彼の茶色の瞳が、そんな葉月を捉えた。
優しげに少し垂れたその瞳が、しかし、一瞬鈍くゆがむ。
葉月は、それに、笑う。
彼は、笑わない。
前の方の席の女生徒がなにやら俊哉に話しかけて、彼は再び笑みを取り戻した。
何事もなかったかのように、笑い、言葉を交わして、その女生徒を軽くこづく。明るい声が鳴った。
生徒のざわめきに押されるように、教室を出て行ったその後姿を、葉月は、そっと追った。


放課後特有の喧騒の間を、葉月は泳ぐ。
赤い夕焼けは、夏特有の暑さを含み沈んでいく。色とりどりのベスト、白いシャツ、紺のスカート、黒いズボン。カラフルに彩られたその世界を見回しながら、葉月は、進む。友人に軽く手を振り、教師や先輩に会釈をしながらも、前を進む俊哉の背だけを見つめて、追っていた。
つかず、離れず。
するりするりと、廊下を進み、階段を降り、校舎の一番西端にある生物準備室のドアに指をかけたところで、唐突に、俊哉が葉月を振り返った。

「ん?」

楽しそうに葉月は笑って、首をかしげた。
人当たりの良い俊哉の目が、少し剣呑な光をはらんだ。

「…話がある」
「はい」
「とりあえず入って」


ほんの少し人目を気にするそぶりを見せた俊哉にあわせて、葉月も、にっこりと笑い足音を立てずに、彼の横をすり抜けてその部屋の中へと滑り込んだ。
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