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ねこと眠る箱庭

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赤いほうき星と黒の呪文

Story2 唄い星 (前編)

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折れてしまったヒールが、ぷらぷらとみっともなく揺れた。
裸足になった左足を持て余して、
無駄に空を見上げた。

「あーあ」

吐いたため息は、色もつかずに静かに溶ける。
こんなとこでぼんやりしていたら、
終電さえも逃しかねないのだが、
なんだか、ヒールの外れた靴を履くのも、
誰かに頼るのも全てが全て、みじめな気がして、
何もする気がおきずに、私はもう一度深くため息をついた。

どこかで、歌う声がしている。
誰かがストリートライブでもやっているのだろう。
にぎやかな学生の軍団が、こんな時間に制服姿でがちゃがちゃと通り過ぎた。
大きなダンボールを抱えた初老の男性が、のそりと闇に隠れる。
シャッターの降りた店の軒先で、座って見る街は、いつも以上に雑多で暗い。
たいして空は、月が明るく雲ひとつ見えずに、からりと晴れていた。
星が、きらきらと、点滅している。
それは足元の地面にも映っているのか、コンクリートが、きらきらと、揺れる。

「あの」

不意に、そこへ影がかかった。
裸足の左足の先に、カラフルなスニーカーがちょこんと並んでいるのが視界の端に見えて、私は、視線をあげた。

「はい?」

知らない男の子だった。
女の子みたいなかわいい顔をしていて、被ったフードの隙間から除く丸い目が、月のようにくるりと輝く。

「あの。そこ、少しだけズレてもらっても、いいですか?僕の、定位置なんで」

定位置?と聞き返そうとして、彼の肩越しにのぞくギターを見つけて、合点がいく。
あぁ、はい、と、なんだか間抜けな返事をして、私は左へずれた。

「ありがとうございます」

綺麗なハスキーボイスで、丁寧に言うと、相席をするかのような仕草で、私の横に腰をおろした。
ギターケースを地面に広げ、鮮やかな赤いギターを準備しながら、彼は歌うように声を立てる。

「どうしたんですか?」
「え?」
「こんなとこで。一人で」
「え、あぁ。靴が壊れちゃって…」
「靴?あぁ、ヒール」
「それで、どうしようかと」
「え?それなら、誰か呼べばいいのに。携帯とか」
「そうなんですけど…。まあ、別にいいかって」
「はぁ。あ、じゃあ、どうぞ、これ」

不意に彼が差し出したのは、小さな接着剤だった。

「あ、どうも」
「歌ってて大丈夫ですか?嫌なら、それが直るまでは待ちますけど」
「あ、いえ。どうぞ」
「ありがとうございます」

さらりと。
呼吸の続きで彼は歌いだす。ギターの弦が、驚くほど自然にその歌声を追いかけはじめた。
恋の歌だな、と思った。
英語の部分が多くていまいち内容を把握しきれないが、
願いをささげるような、恋の、歌だ。
なんとなく、そう思った。



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