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ねこと眠る箱庭

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くもりクロス

No.3 声と色彩-1

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    No.3 声と色彩



結局、弁当なんてものを食べたら、
尋常ではないくらいの睡魔の猛攻にあってしまった。
ほとんど惰眠しかむさぼらなかった5、6限の終了後、
僕は、家に帰るのを一時的に諦め、誰もいない教室へ忍び込んだ。
いまや少子化の影響は色濃く、クラス数が減ったのか、
使い道のない教室が数箇所、この高校にも存在している。

ほどよく静かで、わずかにほこりっぽい、
その空間の隙間を縫って、
僕は、もう使われていない机と机の合間に、
着ていたベストを脱いで、それを枕代わりに寝そべった。
待ち構えていたかのような睡魔に、
うっとりと目を閉じる。

ああ、でも、
またあの夢を見るんじゃないだろうか。
どうして彼女は、
僕を殺しているのだろうか。
なにか、そんななにかが、僕と彼女の間に起きただろうか。

うたたねの合間に、隣の教室から声がする。
女生徒の声だというのは、音程でわかった。
なんとなく耳を澄ましていると、会話の内容が漏れ聞こえてくる。

「でもちょっとひどいですよね!教師の横暴ですよ!」
「まぁねー。でも仕方ないよ、補習なんだから」
「美術の補習なんて、聞いたことなくないです?」
「課題が終わらない生徒が多いんでしょ」
「だからって何も占領しなくても!」
「まぁ、でも、どこでも描けるからねー」
「じゃあ、向こうがどこかで描くべきですって」

不満げに、かわいく文句を言う声と、それを受け流す少し大人びた声。
そしてその合間に、忍ぶように、笑う声。
ああ、美術部か、と思った。
そういえば間淵も美術の補習がどうだとかで、さっき美術室へ向かうのを見送った気がする。
どうやら、美術選択の人間たちで埋め尽くされる美術室を追い出され、
この隣にある教室で、活動を余儀なくされているらしい。
そう思ってよくよく辺りを嗅げば、
気のせいかどうか、油絵の具の、もったりとした匂いを感じた。

「教室で油絵の具なんて、使って大丈夫なのかなぁ」

のんびりとした声が混ざって、不意に、僕の、脳を刺激した。
だけれど、眠りの世界に落ちた僕には、
まぶたのひとつ、指の一本も動かすことは、ないのだけれど。

「こぼれたらまずいですよね」
「その時は、先生が責任とってくれるでしょ」
「そうだよね」
「っていうか、あんたは油絵の具使ってないじゃない」
「里香がこぼすかなって」
「何それ。失礼な」

ころころと、鈴の鳴るような、
教室では聞いたことのない笑い声を、
彼女―高梨があげるのを、遠い現実の片隅で、聞いた。




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