FC2ブログ

ねこと眠る箱庭

スポンサー広告

スポンサーサイト

 
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



*Edit
   

短編箱  ~SSの溜まり所~

春、来たりなば。 (1)

   Next





『ミハル、ちゃんでいいんだよね?読み方』

大学入学したての春、オリエンテーションの合間に唐突に降ってきた、
とてもとても、甘い声。
上質なスイーツのような、その声に、ぽかんとして振り仰げば、
そこには、茶色のふわふわした髪と、つやつやの肌と唇と、綺麗な丸い瞳があって。
声以上に、極上の、甘そうで可愛い女の子が立っていて。

『そう…だけど』
『すごい。おんなじ名前だね。はじめまして。進藤美晴です』
『え?』
『よろしくね。堀井美春、さん』

そう言って、女の子の私がときめいてしまうようなくらいの笑顔で、
美晴が、笑った。


* * * * * * *


「ね、ハル。ご飯買ってきた?」
「ううん。食堂でいいかなって」

とんとん、と、ノートを束ねる手を止めて、美晴が首をかしげる。
ふわりと、いいにおいが、髪からした。

「美晴は?」

私の右隣から体を乗り出すように、絵梨が聞く。

「私も今日は持ってきてなくて」
「じゃあ、みんなで食堂いこうよ」
「なぁに?絵梨、何か食べたいものでもあるの?」
「最近メニューが増えたから、挑戦をね」

本当ー?と、くるりと丸い目を可愛く揺らして、美晴が反応する。

「え?なになに?美晴たちも食堂?」

前に座ってた男子グループが振り返る。
うん、と可愛く笑った美晴に、みんなの目じりが下がるのがわかる。

「俺たちも一緒に行っていい?」
「いいよー」
「あ、ついでにさ、美晴、さっきのとこ写さしてよ」
「いいけど。あ、でも、私のよりハルのがわかりやすいと思うよ?」
「じゃあ、ハル見せて」
「調子いいなぁ…」

私はため息をついた。
後でね、という言葉にかぶるように、また美晴を中心に盛り上がる話題を、
なんとなく眺めていく。

美晴と出会って、
私は美春ではなくなった。
同じ名前だからと呼び方に困った時に、
グループの内の誰か、たぶん、男の子だったと思うが、その子が言ったのだ。
『美晴は美晴で。美春がハルでどう?』
深い意味はないのだろう。それはあくまでも当然の流れとして出来たものだけれど。
なんとなく淋しい反面、
私は心のどこかでほっとしていた。
名前が違えば、もう、比べられることもないだろう。

美しさのある美晴。ない美春。




 Next
スポンサーサイト



   

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。