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ねこと眠る箱庭

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短編箱  ~SSの溜まり所~

春、来たりなば。 (2)

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「お、ミハル達じゃん。ここ開いてるよ」

食堂に着くと、窓付近の席で、手があがる。
創太が、その高い身長に似合った長い手を、ゆらゆらと振っていた。

「創太くん、きてたんだ」

美晴が、表情をやわらかく和ませて、嬉しそうに走り寄る。

「やっぱり美晴、創太のこと好きなんじゃね?」
「ああ、かもなぁ」

別に残念だというほどの響きでもないが、少しぼやくように私の横で男子たちがささやく。
私も、そう思っている。
あの可愛い美晴が、普段以上に、可愛く笑うのだから。
それは女の子の私でさえ、心が揺らいでしまうほどの、魅力的な笑顔。
こんな顔をして、微笑まれたら、
誰だって、美晴を、好きになってしまうんじゃないだろうか。

だから、いつも。とても、心が、痛む。

「ハル、席狭いけどここでも良い?」
「うん、いいよ」

結構な大人数で来たせいか、余っている席がなくなってしまい、
私は、絵梨の横に、お誕生日席よろしく新しく席を作る。

「あ、何それ、カレー?新作?」

そのおかげか、たまたま隣になった創太が、私のトレーを覗き込む。

「そう、新作。トマト味。いいでしょ」
「確かにうまそう。ってか、美春はカレー好きだよなぁ」
「え?私?」

逆隣の美晴がきょとんとするのを見て、創太が慌てて手を振る。

「違う違う、こっちの美春」
「創太さぁ、ややこしいんだから、ハルのことはハルって呼びなよ」

絵梨が苦笑するのにあわせて、私以外の人間がそうそうとうなずく。
同調するのも変な気がして、私は、カレーに目を落とした。
スプーンでつつくと、申し訳程度のビーフがふにゃりと揺れた。

「まぁそうなんだけどさ。でも美春もミハルじゃん」

言葉遊びかよ、と突っ込まれている彼を、私は視界の端で見上げた。
創太は優しい。
どこまでも優しい。
創太だけは、私を、ミハルとしてみてくれているのだから。
私にとってそれは、
とてもとても幸福なことで。
けれど、どこか、たまらなく苦しかった。




だから、その夜。
私は、創太に、別れ話を持ちかけた。




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