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ねこと眠る箱庭

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*Edit
   

彩箱   ~色が題のSS~

白 (後)

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そういえば、かばんはどこだろうか?
赤いショルダー。いつもの左肩には乗っていない。
携帯は?上着のポケットにあるはずだが、重みがない。
探そうと思う頭の片隅で、
けれどなぜか後方30メートルくらいにあるのがわかった。
そんな無造作に投げ捨てなくても、と、誰とはなしに突っ込む。

わけもわからず、再度足が前にでた。
足裏のバランスが悪くて、体がふらつく。
眩暈がするような気分で下を見る。

たいして何も不満はない。
日常は、曖昧な私にとって相応に曖昧でいいかげんで。
だからこそ、充足感はないが、大きな問題もない。
だから、
特に生きていたいわけではないが、
無理に死ぬほどのこともない。
消えたいとは、頻繁に思うけれど。
叶うものならば、あっさりと、まるで空気のように、
消えてしまえたら、どんなにいいだろうかと思うけれど。
それは、死ぬことと同意でもいいのだけれど。

そう、

別にわざわざ、
痛い思いをするくらいなら、


死ぬ必要性は、ない。




その結論が出た瞬間、
不意に、足が軽くなった。
くるりときびすを返して、屋上の中ほどまで戻る。
落ちていたかばんを肩にかけ、携帯電話をあける。
メールは来ていない、いつものこと。
時計は、21時を超えている。

ああ、なんだか、おなかがすいたな。
今日の夕飯はなんだろうか、寒いからクリームシチューかな。

左目の端に、白い小さな花束が映った。
立ち止まるほどでもなく、歩きながら流し見る。
トルコ桔梗だろうか、白い花が、透明なセロファンにくるまれて、
ちょうど私がさっき立っていた、数歩右のところに、
淋しく、けれど、はっきりと存在して、置かれていた。

白いリボン。
ああ、あれは、きっと。

けれども私は、そのまま、
屋上の階段へと、姿を消した。


* * * * *


彼女が去った屋上に、男がひとり。
さきほどの彼女のように、屋上のふちに足をかけて、
下を見下ろしている。
真っ白な顔、真っ白な肌、真っ白な瞳。
自分の足元にある、白い花束を眺めて、ひっそりと、ため息をついた。

近頃の若者は、わからないな。
これじゃあ当分、道連れで死んでくれる人なんてみつからないよ。

はぁぁ、と、なんだか間抜けた大きなため息をついて、
男は、風の中へと、姿を消した。


     ~『白』 end  



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